私たち建築家が何を考えて設計しているのかを一般の方に知ってもらいたい、との思いで書いています。CB建築講義の第二回目は、私たちが建築空間をどう受け止めているか、視覚をはじめとした五感で受け取る空間と心の関係性について考えます。私たちは、みる・きく・かぐ・さわる・あじわうという五感で知覚される多くの情報を瞬時にしかも体系的にとらえ、建築空間を受け止めています。そして建築家は、長い歴史の中で建築空間の知覚構造を理解し、同時に建築空間の法則を設計行為として、今も発明し発見し続けています。
月曜日, 5月 22, 2023
月曜日, 5月 01, 2023
コアドライとCLT
連休前の4月27日、先月HOBEAフォーラムで木質について講演した北海道林産試験場の大橋義徳さんを訪ねた。カラマツ材コアドライ、トドマツとカラマツのCLT、最適な塗装、などなどデータを取りつつ経過観察している実験棟(北海道CLTパビリオン:遠藤アトリエ設計)などを見せていただく。コアドライは、伐採期にある北海道産カラマツ人工林材を柱材として利用するためのねじれや割れを防止する乾燥技術で、北海道林産試験場が主導して開発した。こうした地元産木材を北海道で設計する我々が日常的に使えるようになれば良いのだが。
左がコアドライによる製材。中央と右は従来の乾燥材で割れが生じる。北海道CLTパビリオン~設計は遠藤アトリエ(上:内部、下:外観~向かって右はトドマツ、左はカラマツを使い分けて経年変化を検証する、実験棟)水曜日, 4月 26, 2023
週刊ブロック通信4月24日号に寄稿しています。
週刊ブロック通信4月24日号へ、「CB建築の講義・その1」を寄稿しました。私が建築設計するときに何をどのように考えているのか、をはっきりと伝えたい。それが講義という形式になりました。私は講義は対話(ダイアローグ)だと思います。ちょっと上から目線に思われるかもしれませんが、そうではありません。一方的ではなく、様々な意見に耳を傾けていくことが考えを深めることになります。
今回、建築の原型としてのシェルターは人との関係性によって大きさなどが最適化される、ことを述べました。つまり人との関係性をどう作るかで、大きさなどの設計が決まるのですね。
CB建築の講義・その一
前回、建築は床・壁・屋根でできていて、生命と財産を守るシェルターだと学びました。改めてシェルターを辞書で引くと「群れの保護が原義で、避難所、隠れ場、小屋、住まい、バス停、防空壕」です。また類似語のシェルは「堅い外皮が本義で、貝殻、外殻、局面板」で機能と構造のイメージが浮かびます。ここで私が設計した二つの具体例、規模の小さな住宅建築と規模の大きな公共建築の例で比較考察してみましょう。「僕の部屋」は面積8.5㎡、ベッドと机が置いてある子供室です。自然光は入りますが不可視で遮音性能があるガラスブロック壁で仕切られています。常に他の家族からプライバシーが守られている極私的な場所(シェルター)です。ここでは帰宅した子供が例外なく落ち着くことができます。他方「札幌市中央図書館アトリウム」は天井高9.1mで256.2㎡の面積です。図書館を訪れる市民があふれています。隣接する公園を眺め、壁と天井のガラスからの自然光に溢れた光景に非日常の喜びを感じられる場所(シェルター)です。大きなアトリウムが私たちの心に与えるものと小さな子供室のそれ、つまり大小の異なるシェルターのそれぞれが人の心に響くものの違いに私たちは気づきつつ、生活しているのです。ではどのように響いているのか、何がそうしているのか、という考察は次回のお楽しみに。(山之内裕一・山之内建築研究所)
木曜日, 4月 20, 2023
薪ストーブの知らせが施主から届いた
桜が咲き春を迎えた北海道、冬の半年間活躍した薪ストーブの情報を施主が寄せてくれた。
数年前に薪ストーブを導入した施主から、その後の使用状況を知らせるメールが届きました。この住宅では、おおむね9月から4月いっぱい薪による全館暖房を実施しているという。ひと冬の薪の使用量は3タナ分の丸太(1タナは地元の出荷単位のことで約0.5立米)だという。
この丸太をチェーンソーで35㎝にカット後、縦に割って薪にする。使用している薪ストーブのサイズと燃焼時間との兼ね合いで薪の長さを決めた。薪の火は、一度消すと着火に手間がかかるので昼間は火を絶やさないのだとか…
月曜日, 4月 17, 2023
月曜日, 4月 03, 2023
山の手集合住宅・1991年
多少の積雪はいいじゃないかと。透明ガラス屋根に覆われた屋外階段は、開放的な共有空間の中心。私が独立した年に、仕事がないだろうから一緒にやろうと、先輩の建築家・中井仁実(よしみ)さんから誘っていただいた。俺と協働だけど、お前の作品でいいよと。30数年後の今も記憶に残る仕事です。
火曜日, 3月 21, 2023
CB建築の学習(週刊ブロック通信3月20日号)
木曜日, 3月 02, 2023
月曜日, 2月 20, 2023
秋田でコンクリートブロックを語る
週刊ブロック通信2月20日号に「秋田でコンクリートブロックを語る」を載せています。
秋田でコンクリートブロックを語る
昨年末、コンクリートブロック建築を通じて地域へ関わりを深めたいと考えていた矢先に、秋田での講演会が決まった。声をかけてくれたのは、JIA(日本建築家協会)東北支部秋田地域会代表で地元能代市在住の建築家・西方里見さん。全国一を誇るスギ人工林資源を背景とし、秋田県内をはじめ全国各地で性能重視の木造建築設計で活躍している、売れっ子の建築家。講演打診を受けた時、かつて聞いていた「コンクリートブロックでつくる住宅を、うちの若手設計者は知らない」との言葉を思い出し、意図を一瞬に理解。そして「異文化建築、北海道のCB造住宅」というお題が示されると理解が確信に変わった。
建築は文化の手段、かつてルイス・カーンは語ったという。それに倣い、異建築は異文化の手段、と言える。
ともあれ私は北海道のコンクリートブロック住宅を他の地域に伝える良い機会を得た。現在、北海道はコンクリートブロックの王国ではないが、一時期、官民挙げて王国を夢見た歴史があり、そのことも伝えた。当初の目的、ブロックを通じて地域へのかかわりを深める経験ができたのは良かった。講演終了後、西方さんの案内で、秋田・能代市を巡った。能代は古くから良質な木材生産地で、生育から伐採、運搬と加工、地域の一貫した基幹産業を誇る林業の街。なかでも驚いたのは能代港。古くは北前船で良質の木材を北海道へ積み出していた。現在は、隣国・中国への輸出港として大量の丸太がストックされている。遠浅の海には海上風力発電タワーが林立している。人口6万の地方都市で地域の循環に役立つ持続可能な素材・工法と真正面から立ち向かっている西方里見さんの姿がまぶしく見えた。その姿は、全国各地で手段は異なりながらも同じように奮闘する多くの建築関係者に勇気を与えるだろう。(山之内裕一/山之内建築研究所)
木曜日, 2月 16, 2023
木曜日, 1月 19, 2023
日本海・能代港の洋上風力発電
秋田県の米代川河口の街、能代市で洋上風力発電を見た。古くから秋田杉の集散地として栄えた街で、港には秋田杉の丸太が山積みされている。定期的に運搬船が入港し中国へチップ原料として輸出される。能代は風力発電に適した風が吹く場所で、そのため海に面し江戸時代から続く杉の防風林が数十キロにおよぶ。今後、洋上風力発電はさらに大規模につくられる予定だ。再生可能エネルギーと木材産業、ここには日本の多くの街にはないカーボンニュートラルな街の姿がある。
月曜日, 11月 28, 2022
木曜日, 10月 20, 2022
CBは過去の素材としてではなく…
週刊ブロック通信「ブロック造住宅の系譜」9月、10月をまとめて載せました。外皮として、鉄骨造やRC造と組み合わせた建築例です。たまたま無名教育施設と有名住宅の組み合わせになりました。どちらもブロックが他の選択肢がなく、風土に根差した建築材料として選ばれた時代です。時間は逆戻りしませんが、ブロックの復権の手掛かりになるかもしれません。
水曜日, 8月 24, 2022
32年前のマニフェスト
週刊ブロック通信コラム、ブロック住宅の系譜8月は「32年前のマニフェスト」。今年1月JIAが募集した「私のマニフェスト」に応募した。マニフェスト=宣言は、現在の立ち位置を自ら表明するもので、ややもすれば後ろを振り返り懐かしさで一杯になるところを批判的に論じる。そうして、一歩一歩前進するのか、自然にズルズル後退するのを抵抗できているのかは不明。
32年前のマニフェスト
私の仕事場は、1985年に設計したブロック造の共同住宅の一角、1990年に設計事務所を開設しました。今年の夏休み中、私自身が当時書いた文章を読み返す機会があり、再録します。
設計作業の中で、建築を考える時、私は次の4つの事を大切にしています。第1はコストです。物には値段が付いているという意味で、建築と経済の強い結びつきを実感します。高い建築材料・製品ですべての部分をまかなうことは不可能ですから、様々な工夫が必要と感じます。コンクリートブロックの使用は、どこでも比較的安価で入手できるという理由によっています。工業規格製品や外国製品で安価なものの利用、手間のかかった古いものの再利用などを積極的に考えています。しかし、性能や機能を確保するためには、石やステンレス等の高価な建築材料も時として使用する心構えは忘れてはいけません。適材適所を心がけています。第2は、自然条件としての地域性です。北海道では冬場の雪と寒さ、敷地を含めた周辺の微地形を読み取ることを考えています。特に狭い敷地の場合は、慎重にアクセス・視線方向・風向・日照等を検討しておくべきだと考えています。北海道では高気密高断熱工法が容易になった今日、住宅を無配慮に敷地に置くだけの設計は許されません。また、北海道では冬を旨とするあまり、春から秋の大切な期間をぶざまに過ごすこともできません。一年を通じ積雪によるグランドレベルの上下変化を計算した断面設計を心がけたいものです。第3は、建築は極めて社会的な問題そのものです。公共建築が行政の公約や成果の対象としてだけではなく、街づくりのプログラムの根幹として重要なのと同様に、民間の住宅でも外観や共有空間に公共性を意識した設計を心がけるべきだと考えています。その意味で、二世帯住宅や共同住宅に見られるライフスタイルのプログラムをより社会的な問題として認識しておく必要があると考えています。第4、最後に私は何を表現したいのか、です。私自身は、表現者で同時に生活者です。建築を味わう者としての時間も大切なものと考えています。常に私の身体を通して表現されるスケール感・素材感等でありたい。広く世界から、また永い歴史の中から学び、私たちの生活の中で生かしてゆくことができれば素晴らしいと考えています。「創意に溢れた北の建築家たち・1991年・日建新聞社発行138頁より抜粋」
(山之内裕一/山之内建築研究所)
土曜日, 7月 30, 2022
住宅の増築の可能性
月一のコラム「ブロック造住宅の系譜」7月25日号は、現在進行中の住宅増築について、フライング気味の投稿です。このところの建設資材価格変動の影響で予算通りに見積が整わない。上限をねらいギリギリの設定でスタートするものだから、どこかで無理がくる。クライアントもそのあたりは十分に理解しているので、様々なアプローチでトライアンドエラーを繰り返す時間を私も楽しんでいる。この計画案は、そうしたチャレンジの一例としてまとめてみたものです。
木曜日, 6月 23, 2022
週刊ブロック通信6月20日号
今月のコラムです。きっかけは、エルクロッキー誌に掲載された横浜大さん橋設計者の建築家アレハンドロ・ザエラ・ポロの論文「the end of manners 」、作法の終焉というのだろうかパンデミック後の世界を論じている。ただ単に建築状況のみではなく、政治経済文化をひとくくりにした優れた批評。コロナ禍の時代が、建築に新しい変化を指し示す、というものだが。膨大な情報量と英文のため、更なる読み込みの必要を感じつつ一時休憩。そこで問題意識の近い方向にささやかな話題を探しコラムを書いた。いままで何気なく使われてきた言葉が他者に不快感を与えているということから、言い換えたりすることについて書いている。トイレを何の躊躇なく便所と言った昔、社会性に配慮し今は変化したことなど。
デザイナー銘板が付いた車
先日、久しぶりに訪問したブロック住宅「小屋群住居O」。クライアントが快く迎えてくれた。ガレージで作業中ということで、一緒に雑談。黄色のパンダは、29年乗っているという。先日、車検を更新し2年また乗るのだという。走行距離は10万キロを少し超えたとのこと。鮮やかな黄色はコンクリートブロックのグレー色と良くマッチしている。ジュージアーロの銘板に感動した。もともと付いていたものかどうか、クライアントに確認するのを忘れていたが、デザイナーの名前を付けた車を私は他に知らない。
月曜日, 5月 23, 2022
蛇篭のある庭(garden with gabion)
週刊ブロック通信5月23日号に、今年完成した住宅庭の土留めに蛇篭を使用した例を紹介しています。雪が消え木々が青々と芽吹く敷地周辺の自然に美しさと生命力を感じている。それと同じように感情移入できるような庭をつくりたいと思った。RCやCB塀を使わない土留め「蛇篭」の採用はそうした理由によるもの。そして、実際に作ってみて初めて理解できることが、建築には必ずあります。
蛇篭のある庭
住宅庭の植込み擁壁を自然素材でつくりたいと考えた。住宅敷地は道路と最大700mmの高低差があり、また風致地区内にあるため3m以上の建物後退が求められていた。そこで建物外壁と道路との間に植栽帯、つまり植込みが計画された。植込みは、植栽と擁壁とで構成される。植栽は植物、だから季節ごとに様々な表情を見せ、時間とともに成長し時間を経て老いる。擁壁も植栽同様、時間とともに味わいが深まるようにしたいと考えた。植栽と同調する擁壁をイメージしたなかで、前回紹介したバルセロナの都市公園の例が浮かんでいた。バルセロナの例は、D10以上の異形鉄筋を縦横に組む直線的な構成。中詰石は地中海の石灰岩のように見えた。今回の蛇篭は、「パネル式ふとんかご」、工場生産されたユニットを現場で組み立て施工が比較的容易に可能だ。蛇篭は、一般的な土木材料で、地場に製造業者も存在している。中詰石は、花崗岩の砕石で、もちろん地元産。現場作業は、基礎根掘りから石詰めまで、使用機械は小型のバックホーのみ、天候に左右されず短期間で施工できた。中詰石に押されて柔らかく膨らむ蛇篭でつくる植込み擁壁は、敷地まわりの緑と同様に直線的ではない自然な雰囲気を住宅庭にもたらしている。(山之内裕一・山之内建築研究所)
金曜日, 4月 22, 2022
蛇篭(GABION)
週刊ブロック通信4月号のコラムです。いつも心掛けているのは、ブロック住宅の系譜という「お題」の範疇でどれだけ遠くに行けるかということ。今回は、住宅の外構の取り組みの中で土木工事のアイテムである蛇篭を取り上げた。2010年、北海道の建築家協会(JIA)とバルセロナ建築協会の交流として10日間ほど現地に滞在した時に、バルセロナの建築家エンリック・マシップ・ボッシュ氏に薦められて見たものだ。
住宅は、建物だけ出来ても完成とは言えない。敷地内のあらゆる部分が整い、また家具や室内の雰囲気も大切で、それらが住まい手と共に時間をかけ醸成し初めて完成に至るもの。そこで今回は、敷地の雰囲気をつくる外構を取り上げてみたい。 敷地平面は、土地を覆う植栽とそれ以外のものとに分けられる。敷地断面が平坦な場合であってもわずかな土地の高低差を上手く取り入れた庭づくりは心地よいものだ。ましてもともと傾斜を有する敷地の場合、土地の段差を魅力的に活用した庭づくりは外構の醍醐味であり、広い意味でランドスケープと言う。
建築はランドスケープだ、とのコンセプトで外構と建築を融合させたスペイン・バルセロナの公園がある。市街地の集合住宅とその周辺を取込んだ都市公園の例で、そこで用いられた擁壁の素材と工法が私の目に焼き付いている。
日本流にいえば蛇篭(じゃかご)。石積擁壁を鉄筋フレームで囲う構造だ。実は、組積造の原点ともいうべき工法で、多様に進化してきた歴史がある。(「日本じゃかご協会」ホームページ参照。)代表的なものは、護岸工事など土木工事として、金網で石を包み固定した工法。自然石と金網、どちらが主役になるかによって形態が分かれるが、原理は同じ、自由に動こうとする石を金網が拘束する構造。この構造は、補強コンクリートブロック造と良く似ている。そして持続可能な、誰でもどこでも手にできる自然素材を活用した住宅の外構を考える有効な工法なのです。
(山之内裕一・山之内建築研究所)
金曜日, 3月 25, 2022
赤レンガの有用性
週刊ブロック通信3月21日号の「ブロック造住宅の系譜」コラムです。浦河教会の基壇部の煉瓦ワークについて書きました。
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浦河教会は、ちょうど先日、たくさんの来訪者の方たちにご覧いただいたところです。室内に入り皆様からは、ほっとできる、休まると言った感想をお聞きすることができました。